量子力学においては物質は「波と粒子の性質の両面を持ち、エネルギーとしての性質もあわせ持つ存在」であると考えられているという話題を前回はお伝えしました。

例えば目の前にある「机」はエネルギーの集合体なのですが、私たちはその机を「エネルギーの集合体」として認識するのではなく局在する個体の「机」と認識します。
量子レベルでは物質は波として広がった性質を持ち、非局在的に振る舞いますが、マクロな世界では、物質は安定した位置に存在するように見えます。 私たちの脳は、こうした“安定性”を優先して認識するように進化してきたため、実際にはエネルギーの集合体である「机」を、明確な形と位置を持つ“個体”として捉えているのです。
「認識すること」が「実在(局在)」を生み出す世界。この世界を哲学者たちはどのように見てきたのでしょうか?

偉人たちが考える「現実」
プラトンの洞窟の比喩
古代ギリシアの哲学者プラトンは『国家』第7巻の中で『イデア論』を説明するために「洞窟の比喩」を語っています。
囚人たちは地下の洞窟に生まれた時から縛られており彼らは洞窟の壁しか見られず、背後にある火の光で映し出された「影」だけを見て生きている。その影は、塀の上を人形が運ばれることで生まれるが、囚人たちはそれが「現実」だと信じている。
囚人たちは、洞窟の壁に映る「影」を「現実」だと思って生きています。自分の見ているものが真実ではない、そのことに気づく事も出来ない状態なのです。これはまるで「個体」だと私たちが信じている物の真実は違うという事に近いのかもしれません。
物語は続きます。のちに一人の囚人が解放され外の世界を見る事により、自分たちの見てきた影が実態ではない事に気が付きます。仲間に真実を伝えますが、つながれた囚人たちは「影こそが現実」だと信じて疑わなかった、というのが物語の概要です。
実際は「エネルギーの集合体」と告げられても、それを真実とは認める事ができない私たち。
「プラトンの洞窟の比喩」が語る本質に、今の世の中に共通するものがあるように思うのは私だけでしょうか。

カント 認識とは?
私たちの認識がこの世界の見え方を左右しているのではないか?とカントは語っています。
「我々の認識は、物自体に到達することはできず、現象として現れるものだけを対象とする」 カント『純粋理性批判』
カントの考えでは、私たちが「現実」と呼ぶものは、実は“感性”と“悟性”という認識のフィルターを通して構成されたもの。カントは、私たちが直接触れることのできない「物自体」があるとし、それを知ることはできないと語りました。つまり、私たちが見ている世界は、私たち自身の認識の枠組みが生み出した“現象”だというのです。
このようにカントもまた、プラトンと同じく私たちが見えているものが物自体(真実)であるとは限らない、と語っています。
これら2人の言葉は、量子力学における
すべての物質は継続して「局在」するものではなく、「波と粒子の性質の両面を持ち、エネルギーとしての性質もあわせ持つ存在」
という考えに、どこか共通するものがあるように思えます。
この世界のすべての物は、局在する存在ではなく、エネルギ―の集合体。
私たちはそのエネルギーの集合体を、脳のフィルターを通して「個体」として認識していると考えられます。
アインシュタインの言葉
最後に、「この世界という現実」をアインシュタインはどう考えていたのかを推察するのにふさわしい言葉をご紹介します。(この言葉は、彼の人道的な思想や宇宙観を象徴するものとして広く知られていますが、出典には諸説あります)
1人の人間の存在は、我々が「宇宙」と呼ぶ全体の一部であり、
それは時間と空間において限られた一部である。
人は自分自身、自分の思考や感情を、
他から切り離されたものとして経験する。
これは意識における妄想である。
この妄想は、我々にとって一種の牢獄であり、
個人の欲望と、最も近しい数人への愛情に我々を限定してしまう。
我々の努めるべきことは、
全ての生きものと自然全体の美しさを包含する同情の環を広げることにより、我々自身をこの牢獄から解放することである。
アルバート・アインシュタイン
私たちは”宇宙全体の一部”であり、他から切り離された一人の存在として経験することは”意識における妄想”だと言っています。そして私たちの意識(認識)が妄想という牢獄を作り出していると考えていたようです。

プラトンやカント、アインシュタインの言葉から、みなさんはどのように感じるでしょうか?私たちが現実だと思っているこの世界は、意識(認識)が作り出した妄想なのかもしれません。
もしこの世界が、私たちの「認識」によって形づくられているのだとしたら——その「認識」を見つめ直すことこそが、現実を変える第一歩なのかもしれません。
次回は、「認識」という静かな力に触れてみたいと思います。
\ 共感してくれたらポチリしてね /
